大雑把に言ってしまえば、“The Catcher in the Rye”は、時代特有の憂鬱を生々しい言葉で描き出した――物語だと言えるだろう。まったくもってありふれた言い回しであり、もはやこれだけでは何の意味もなさない言葉かもしれないが、まずそうした理解からはじめたくなってしまう。それは、まあ無理の無いところだろう。
こうした問題は、他にも英語を日本語に訳すとき数多く直面する。たとえば例文の初歩としてその昔教科書でよく使われていた“This is a Pen”とか“I am a Boy”を例として挙げると、この“a”に「単数の」という意味があることは大抵の人が知っている。しかしこれを翻訳するとき、「これは一つのペンです」とか、「私は一人の少年です」などとする人が何処にいるだろう。この“a”は文法上の都合で欠かせないだけで、文意に単数の強調があるわけではない。たぶん誰でも両方を省略するに違いない。